こんにちは。アメリカ民謡の名曲[Shenandoah]をジャズ初心者でも簡単にわかるように解説するコラムです。
時代は今からおよそ220年前、場所はアメリカ中西部から南部あたりの広いエリアです。
アメリカには”ミシシッピ川”を始めとした大河が複数あり、先住民であるアメリカン・インディアン”の生活を長きに渡り支えていました。
なお当コラムでは”アメリカン・インディアン”という呼称を用いていますが、これは筆者がアメリカの居留地を旅したとき、現地の方達にそう呼ぶべきだ、と言われて以来、このように呼んでおりますことをご了承下さい。
そんな大河の中でモンタナ州南西部のロッキー山脈中に源流を持ち、ノースダコタ州、サウスダコタ州、ネブラスカ州、アイオワ州、カンザス州、ミズーリ州、そしてセントルイスでミシシッピ川に合流する大河があります。この大河を”ミズーリ川”と呼びます。
[Shenandoah]または[Oh, Shenandoah] [Across the Wide Missouri]と呼ばれるこの曲は、19世紀初頭から歌われている、詠み人しらずの民謡です。
船乗りや毛皮商人がカヌーでミズーリ川を下るという内容で、このような”船乗りの歌”を”シーシャンテ”と言います。
長年に渡りたくさんの歌詞が残されましたが、船乗りがアメリカン・インディアンの酋長”シェナンドー”の娘を愛し、結婚をしたいが叶わない、という大筋は一緒なようです。
1800年代半ばには、Shenandoahはアメリカを飛び出して世界中の船乗りが歌ったという話もあり、古の時代から
『男が船なら 女は港』
という男目線の淡い期待に、世の中のフェミニストが黙っていないと思いますが、炎上したくないのでこれ以上触れません。
1700年代後半にアメリカ合衆国が建国して以来、東海岸部以外の広大な地域の開拓を進めてきました。これは行政が動くというより、規制を緩やかにすることで民間の商人達による自由交易を活発化させ、未開拓地の発展を促す的なノリの政策でした。
ヨーロッパで需要の高いビーバー等の動物の毛皮を取扱う商人は、積極的にミズーリ川を遡り、アメリカン・インディアンとの交流を深めました。アメリカン・インディアンとアメリカ移民の歴史とその関係は大変複雑で、時代や地域、部族によって蜜月期があったり排他的であったりしますが、少なくともこの歌では、友好的な関係であったことが伺えます。
さて、シェナンドーという固有名詞について、ニューヨーク州の中心部のオネイダ城を拠点とした”イロコイ族”の酋長シェナンドーの娘と、恋に落ちた商人の物語が残っています。18世紀、アメリカは建国時にイロコイ族が用いていた”連邦制”を拝借したことでも有名です。
1906年、初の録音はピアニストのパーシーグレインジャーによるもので、イギリスの映画監督チャールズロッシャーによる歌唱とともに残されています。
歌詞についても掘り下げていきましょう。船乗りの歌として、長い年月を経て現代に残っている歌詞は以下のものです。
シェナンドー あなたに会いたい
流れる川が聞こえる
シェナンドー あなたに会いたい
広大なミズーリを越えて
シェナンドー あなたの娘を愛している
流れる川の音が聞こえる
シェナンドー あなたの娘を愛している
広大なミズーリの彼方から
最後に会ってから7年が経ってしまった
流れる川の音が聞こえる
最後に会ってから7年が経ってしまった
広大なミズーリを隔てて
シェナンドー あなたの声が聞きたい
流れる川の音を聞くように
シェナンドー あなたの声が聞きたい
広大なミズーリを越えて
シェナンドー はるか彼方の
流れる川の音が聞こえる
シェナンドー あなたの側から離れていく
広大なミズーリに縛られて
現在に至るまで、アメリカと一部のアメリカン・インディアンの関係は良好とは言えません。侵略と略奪、虐殺という暗い歴史を見直し、お互いに敬意を持って共存していくことの大切さをこの”古い船乗りの恋歌”は時代を超えて我々に教えてくれています。
以上、Shenandoahの解説を終わります。孤独のヒュードのYouTube動画もありますので、ザブンとご覧ください。
井上大地